大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)964号 判決

被告人 中川雅宥

〔抄 録〕

原判決書によれば、罪となるべき事実の第二、として「被告人は原判示第一、のとおり、自己の運転する三輸車によつて同判示阿川剛を路上に転倒させ傷害を負わしめるという結果を生ぜしめたのに拘らず、直ちに右阿川の救護ならびに該事故を所轄警察署の警察官に届出てその指示を受けることなく現場を立去り、もつて必要な措置を講じなかかつたものである」旨を判示し、法令適用として同判示第二、の点は、道路交通取締法第二四条第一項、第二八条第一号、同法施行令第六七条第一項、第二項、罰金等臨時措置法第二条に該当する旨を示しているのである。しかしながら道路交通取締法施行令第六七条は車馬又は軌道車の操縦者らが事故を起した場合の措置について規定したものであるが、その第一項においては、「車馬又は軌道車の交通に因り人の殺傷又は物の損壊があつた場合においては、当該車馬又は軌道車の操縦者、乗務員、その他の従業者は、直ちに被害者の救護又は道路における危険防止その他交通の安全を図るため必要な措置を講じなければならない。この場合において警察官が現場にいるときは、その指示を受けなければならない」と定め、その第二項においては「前項の車馬又は軌道車の操縦者(操縦者に事故があつた場合においては、乗務員その他の従業者)は、前項の措置を終えた場合において、警察官が現場にいないときは、直ちに事故の内容及び同項の規定により講じた措置を当該事故の発生を管轄する警察署の警察官に報告し、且つ、車馬若しくは軌道車の操縦を継続し、又は現場を去ることについて、警察官の指示を受けなければならない」と定めているのである。すなわち、同条第二項の規定たるや、同条第一項所定の被害者の救護などの措置を終えた場合において、警察官が現場にいないときに為すべき操縦者らの報告義務に関するものであつて、操縦者らにおいて、同条第一項所定の被害者の救護などの措置を講じないでそのまま逃走した場合には、同条第一項前段の義務違反たるに止まり、該事故を所轄警察署の警察官に報告し、かつ、その指示を受けることがなかつたからといつて同条第二項の義務違反ありとするわけにはいかないことは右法文に照らしてきわめて明らかである。してみると本件において原判決が前示のごとく罪となるべき事実として「被告人が該事故を所轄警察署の警察官に届け出てその指示を受けなかつた」旨判示してこれに対して道路交通取締法施行令第六七条第二項を適用したのは、まことに所論のごとく同法令の解釈を誤つて犯罪とならない事実を認定処断した誤を犯したものというの外はない。然り而して、この誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであると認められるが故に、控訴趣意第一点の論旨は結局理由あることに帰着するものというべく、原判決は破棄を免れない。

そこで、その余の控訴趣意についての判断をもちいず、刑事訴訟法第三九七条第一項に則つて原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書によつて、更に判決をすることとする。

すなわち、当審において認定した罪となるべき事実は、

被告人は昭和三三年一〇月頃から東京都港区芝田村町一九番地大宝産業株式会社に雇われ、常時自動三輪車の運転者として働いていたものであるが、

第一、昭和三三年一二月二一日午後九時頃前記会社の自動三輪車を運転して、東京都新宿区新宿四丁目三六番地先道路上を新宿四丁目交叉点方面に向つてさしかかつたが、自動車運転者としては、このような場合には、法定の制限速度を守るとともに絶えず進路の前方左右を充分注視して警戒し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、酔余これらの注意義務を怠り、約三九粁の時速で、かつ右方に気をとられて進路前方左右の注視を怠つたまま漫然進行したため、進路前方を左方から右方に向つて道路を横断中であつた阿川剛(当時五四年)に全く気付かず、ために車体左前部を同人に衝突させ、同人を前方約一〇米の地点にはね飛ばし、よつて同人をして同年同月二三日午前三時頃、同区百人町二丁目二〇〇番地春山外科医院において頭胸腔内損傷により死に至らしめ

第二、前記のごとく、自己の運転する自動三輪車によつて、阿川剛に傷害を負わせる事故を起したのにかかわらず、直ちに被害者の救護など必要な措置を講じなかつた

ものである。

右事実は、

一、来栖輝夫の司法巡査に対する供述調書

一、司法警察員牧敬司作成の実況見分調書(添付の図面二葉を含む)

一、青木利彦作成の死体検案調書

一、被告人の原審第二回公判廷における供述、司法警察員に対する供述調書及び検察官に対する各供述調書によつてその証明は十分である。

法律に照らすと、被告人の判示所為中、判示第一の点は、刑法第二一一条前段罰金等臨時措置法第二条第三条、判示第二の点は道路交通取締法第二四条第一項、第二八条第一号、同法施行令第六七条第一頃前段、右措置法第二条に該当するので、各所定刑中判示第一の罪については禁錮刑、判示第二の罪については懲役刑をそれぞれ選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七第一〇条により判示第一の罪の禁錮刑に併合罪の加重をすることとし、第四七条但書によつて各罪につき定めた刑の長期を合算した刑期の範囲内で被告人を禁錮八月に処し原審及び当審の訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従つて全部被告人に負担させることとする。

以上の理由によつて主文のとおり判決する。

(尾後貫 堀真 本田)

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